厳島神社世界遺産登録20周年記念として昨年(平成28年)10月14日厳島神社能舞台 にて観月能の公演がありました。観劇は叶いませんでしたが、先日、古典芸能のテレビ番組で
その時の演目「能 羽衣」が放映されており、名月と共に優雅な時を過ごすことができました。
私はこれまで厳島神社能舞台で上演された歌舞伎、狂言、東儀秀樹「幻想雅楽」、世界遺産登録10周年の記念シンポジウムなどのイベントに参加しています。
それぞれの公演とも劇場での観劇では味わえない趣きがあり、大方の場合、潮は大潮の時、月は満月、クライマックスは満潮時に設定されていました。
公演は満ち来る潮で始まり、寄せる潮騒、月は東南から次第に昇り、演目の中頃には満月の澄んだ月明りが水面に揺れ、妙なる鳴り物の響きが囃子方のかけ声、地謡と共に自然の演出と和し、幽玄の世界へと誘うかのように演目は進みます。
終盤にさしかかる頃には舞台はすっぽりと海上に浮かび、満潮時には一瞬潮が止まります。
月影に松葉を揺らすかすかな葉音。そしてその静寂の風景を打ち破るカーンと乾いた大鼓の響きで舞台は大詰めを迎え観衆の高揚の中に幕となります。
往時にタイムスリップしたかのようにしばし余韻を残したまま宿に─。その夜は古典芸能にも精通し、自身も小鼓、長唄をたしなんでいました主人との語らいはお酒も共にはずんだものです。翌朝弥山(みせん)の霊気一杯の空気を手に収め神社にお参りします。朝日に光る神々しく凛々しい厳島神社は夜の華やぎとはまた違った風情があり、厳島の観光の際はぜひお泊りをおすすめします。
厳島神社の社殿が今の形に整えられたのは平清盛が権勢を振るっていた1168年頃。そして能舞台が創建されたのが永禄11年(1568)頃、毛利元就が寄進したと伝えられています。
戦国時代には島全体が戦場となった “厳島合戦”があり、太平洋戦争では直線距離にして約16キロの距離に原爆の投下。そして戦後は枕崎台風の襲来といくつもの災いをくぐり抜けてきた奇跡の神社。その美しく神々しい偉容は後世に守り伝えてゆくべき文化財としてのみならず、私たち日本人の精神的支えとしても在るべき魂のパワースポットとも言えましょう。
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